看板メニューをTシャツにします #07
旨味ととろみが溶け合う軍鶏親子丼 五鐡 夢境庵
名店料理2019.2.22 Fri.
名店の看板メニューでプリントTシャツを制作する連載企画第7回。茨城県は水戸市、旧水戸藩の藩校である弘道館のほど近くに位置し、30年以上にわたって奥久慈の軍鶏料理を提供する五鐡 夢境庵を訪れた。
食通として名を馳せた小説家の池波正太郎が手がけた『鬼平犯科帳』。現代でいう特別警察のような存在である火付盗賊改方長官として、江戸の街の悪党を取り締まった「鬼平」こと長谷川平蔵を主人公にした時代小説だ。江戸の食の描写が豊かなことでも有名なこの作品において、美食家の鬼平や密偵たちが馴染みにする軍鶏料理屋の名が「五鉄」であり、その名に由来する料理屋が水戸で長く地元の人々に親しまれている。
地元の食材を選び抜いた地産地消にこだわる五鐡 夢境庵。夜には軍鶏鍋を含む軍鶏料理のコースのほか、9月〜5月であれば茨城名物の鮟鱇のコース、漢方と食を融合した「医食同源」を実践した水戸光圀公のレシピを研究した「黄門料理」(水戸商工会議所公認)など良質なコース料理を茨城の地酒とともにゆっくり楽しみたいが、ランチに訪れても絶品を味わえる。人気なのが、北茨城は奥久慈産の軍鶏肉を使用した親子丼だ(写真は軍鶏親子丼の上で税込1300円)。
運ばれてきた丼のふたを開ける。卵の甘みと醤油、軍鶏肉の旨味エキスが混ざり合った豊かな香りが湯気となって立ち上る。鼻でその香りを味わったら、添えられたさじで温かい丼をひとかき、ひと口目から思い切り頬張る。舌の上ではつゆでほどけた米粒と半熟のとろりとした卵黄が絡み合い、軍鶏肉はシコシコと歯ごたえよく肉の臭みとは一切無縁、旨味がたまらなく濃厚だ。甘みが抑えめな味付によって、半熟の卵黄の甘みと肉の旨味をより深く味わうことができる。油断すると丼の周りに米などを飛ぶのも気にせず、ガツガツと一心不乱になってしまう。奥久慈産の軍鶏と卵の旨味に夢中になってしまう親子丼だ。
写真と文:中島良平