PEOPLE vol.57 小島 聖 女優

山と旅と食が、女優であることを支えてくれた

Interview2018.5.24 Thu.

控え室を訪ねると、白いTシャツとジーンズ姿で本をひらく小島聖さんの姿があった。手にしているのは、山に魅せられた詩人で随筆家、串田孫一の『山のパンセ』。初版で古びてはいるけれど、シンプルな装丁で静かに時を経たようなうつくしい佇まいがある。彼女が大切にしている本だ。

今日、彼女はここから「春の山」という一節を朗読する。3月1日に出版したばかりの自身では初となるエッセイ集『野生のベリージャム』の中で、この「春の山」を引用しているのだ。小島さんは、女優としてのキャリアを重ねる一方で、この10年プライベートでは大自然に魅せられ国内外の山へと旅してきた。バックパック一つで何日もテントで過ごすような、女性としては少々ハードともいえる旅の中で大切にしてきたのは、“何を食べるか”ということ。

この本には山と旅と食、そして自らの感性に正直にしなやかに生きる一人の女性が山と出会い、母になるまでの10年が綴られている。この本の発売記念イベントとして、原宿の「VACANT」を会場に満員の観客の中、トークショーと朗読が行われた。

「たとえ私はひとりで出かけるにしても、サブ・リュックに魔法瓶を入れ、あつい紅茶をすするくらいの贅沢をしてみる。つぶれないように入れて来たシュークリームを弁当箱の蓋の上に出して、ノートに覚え書きの数行をかきつけながら、そこからはみ出したクリームをなめるだろう」(串田孫一著『山のパンセ』〈実業之日本社〉所収「春の山」より)

串田孫一の本にこの一節を見つけ、「いつかザックの一番上に生のケーキを忍ばせて、山を登ってみたいと思っていた」と、モンブラン登頂の際にモンブラン(ケーキ)を背負って挑んだという本に記されたエピソードは、表面的に映るハードで野生的なアウトドアだけではない、ある一方では女性らしく、ある一方では子どものように屈託のない小島さんらしい感性を表していた。

小島聖(こじま ひじり)

1989年、NHK大河ドラマ「春日局」デビュー。1999年、映画「あつもの」で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。近年、コンスタントに映像作品に出演する一方、話題の演出家の舞台にも多く出演。柔らかな雰囲気と存在感には定評があり、感性豊かな表現で見ている人を魅了している。今年3月、初のエッセイ集『野生のベリージャム』(青幻舎)を発売したばかり。 出演待機作に、舞台『誤解』(10月4日(木)〜10月21日(日) @新国立劇場 小劇場)の出演が控えている。

写真:黄瀬麻以 文:石田エリ

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