TACOMA FUJI RECORDS×Hanes®︎ Japan Fitコラボパック
元々好きなのはスラッシュメタル系のバンドTシャツです。メタリカ以外の。
Hanes Japan Fit2019.10.11 Fri.
WHITE LIFEがプロデュースするTシャツの第一弾がついに今日、発売された。「実在しない音楽」のマーチャンダイズをプロダクト化するレーベルTACOMA FUJI RECORDSと、日本人の体型に合わせた袖丈・着丈・身幅のデザインで、ソフトな着心地と透けない生地感を実現したHanes®︎ Japan Fitのコラボパックだ。コアなファンたちから絶大な支持をされるTACOMA FUJI RECORDSの渡辺友郎と、WHITE LIFEのクリエイティブ・ディレクターでプロジェクトを企画した小松裕行に話を聞いた。
“タコマ富士”の話、レゲエの曲みたいでいいじゃん
TACOMA FUJI RECORDSを立ち上げたのは2008年。「TACOMA FUJIのセールスがある程度軌道に乗ったのは数年経ってからでしたけど、好きなものだけを作り続けられるからストレスなしで楽しい思いしかしてないですね」と代表の渡辺友郎は語る。
「その前はビクターで10年ぐらい、ミュージシャンのアルバムジャケットとか宣伝販促物を作る仕事をしていました。ノベルティとかTシャツとか。よく話してることですが、仕事だと、一番オススメのA案、折衷案のB案、上司のいいなりのC案というのを作るんですが、そうするとほとんどの場合、C案になるんです。それをいかによくするかっていう感じで。でも全部すっ飛ばして本当にやりたいA案だけを作れるようにしたいと思ったのが、独立してTACOMA FUJI RECORDSを始めたきっかけですね」
TACOMA FUJI RECORDS代表の渡辺友郎。カレッジフォントとアーチ状のデザインにこだわったHAPPY HOUR Tシャツはもちろんのこと、WineとLiquorをモチーフにしたキャップもTACOMA FUJIオリジナル。
まずはファンでもあり友人だったアーティストの五木田智央に相談した。「当時は五木田さんのTシャツは片っ端から買って着てたし、一緒に作れたら楽しいし、作れば買う必要もなくなる」という発想からだ。そこでテーマを絞る意味を込めて、ブランドをミュージシャンのレーベルと設定した。デザインをお願いする作家には、架空のミュージシャンのストーリーを作ってもらって、そのミュージシャンのマーチャンダイジングとしてTシャツやキャップなどをデザインしてもらうプランだ。
「なんとかRECORDSかなんとかSOUNDSっていう屋号にしたいと思ってたんですけど、見るからにオシャレなのはイヤだったんですね。逆にダサいなと思って。前にタコマっていうアメリカの街に一時留学してて、そこにマウント・レーニアって山があった話を道場で五木田さんにしたんですね(注:道場とは五木田のアトリエのこと)。“カフェラッテ”のパッケージに描かれてる山です。タコマには大規模な米軍の基地があるんだけど、戦争が終わって、日本に駐留してたアメリカ兵が日本人の奥さんを連れて帰っていたから結構日系人がいたんですよ。
そういう住人が当時は今ほど頻繁に帰国するチャンスがなかったらしくて。でもマウント・レーニアを見て『タコマにある富士山みたいだね』と言って、日本人コミュニティの中で“タコマ富士”って呼んで故郷である日本のことを想っていたって話を、タコマ在住ウン十年みたいな日系の方から聞いたんですよ。タコマに住んでた頃に。そんな話をしたら、『それちょっと物悲しくて、レゲエの曲とかみたいでいいじゃん』ってなって、酔った勢いもあってレーベル名にすることを決めました。五木田さんにロゴも作っていただきました」
五木田智央デザインによるロゴがパッケージにプリントされたHanes Japan Fitと並ぶのは、赤貝の刺身、しめ鯖、マグロのぬた和えなど。撮影協力:佐原屋
「ロゴも作ってくださった僕の敬愛する五木田智央さんによるデザインのTシャツです。画家として世界的評価を得た彼の、絵画とは違うTシャツのアートワークで見せてくれる世界観のファンですよ俺は」
五木田智央や井口弘史といった、ビクター時代からつながりのある作家にデザインを委託し、Tシャツを制作した。並行して、レコード会社から依頼されるアルバムジャケットのデザインなどを受け仕事として手がけていた。赤字にならなければOKくらいのスタンスでやっていたので、受け仕事の収入があれば問題なく続けていけた。趣味でやっていける程度でも、好きなことをやっているから楽しくて仕方なかったという。そんななか、徐々に仕事のバランスがジャケット制作よりもTACOMA FUJIへの比重が増えていったのでラッキーだったと繰り返す。
「ロゴは大切です。バンドのロゴもストーンズとかKISSとかいろいろありますけど、最初からカッコいいロゴなんてなくて、育ててカッコよくなっていくものだと思うんです。だからタコマもロゴTシャツを毎年リリースしています。これは井口弘史さんにデザインしていただいた、少しアレンジを加えたTシャツです」
「ブルックリンの画家マット・レイナスにデザインしてもらったTシャツです。かつて存在した大学のカレッジTシャツで、滅茶苦茶多くの伝説的プロレスラーを輩出した大学なんです。マットは本気のプロレスマニアなんで、ファンタジーとユーモアが混ざったようなこういうデザインを速攻で仕上げてくれました」
Hanesですよ。トンビが鷹を生んだって話です。
「TACOMAでの仕事にはまったくストレスがないんですよ。もちろんセールス面での波はありますけど、好きなアーティストやデザイナーに頼んで、TACOMAのために自由に作ってもらっているんだから、楽しいに決まってますよね。亡くなってしまった橋本真也というレスラーは生前、『夏休みが終わった小学生が、夏休みが終わったのに気づかないまま大人になったような人』と何かの媒体で表現されてましたが、そんな感覚でTACOMAを続けたいです」
TACOMA FUJI RECORDSのファンで、Tシャツやキャップを以前から愛用していたWHITE LIFEクリエイティブ・ディレクターの小松裕行は、あるときに知人経由で渡辺を紹介してもらう機会があった。小松は純粋にファンとして、また、カッティングエッジなTACOMA FUJI RECORDSと無地の白TシャツのスタンダードであるHanesのカップリングに可能性を感じたことからコラボレーションを提案した。
クリエイティブディレクターの小松裕行。着ているTシャツはもちろんTACOMA。牛の誘拐(COW ABDUCTION)に特化した研究機関のロゴがモチーフ。
「プロレスが好きだから、かなりイケてるプロレスモチーフに惹かれたのもありますが、それだけじゃなくて、TACOMAがTシャツで表現しているすべてが理由なくグッときて好きになった」と小松は語る。「好きだから一緒に作りたかったというのはもちろんあります。最初の動機はそれがすべて。それに加えてWHITE LIFE的に言えば、マスプロダクトとしてのHanesのTシャツの可能性と、TACOMA FUJI RECORDSのコンセプトもデザインも最高にハマると思ったんです。何よりも、渡辺さんと実際に会ってみたら、本当に好きなことだけしていて、楽しみながらTシャツを企画して、作って販売している。そのひと回りした感じの迎合しないスタンスが純粋に羨ましいと思ったし、ホントにストレスなく楽しい感じが伝わってきた。絶対一緒に作りたいと思いました。それに、あって話すたびに、前向きなエネルギーをもらえるんですよ」
TACOMA FUJI RECORDSの事務所(渡辺いわく“部室”)を訪れた小松は驚いた。従業員は渡辺一人。男性社員を雇うとかわいがりレベルに厳しくなってしまう懸念があり、女性社員を雇うと「多分真面目な子を雇っちゃうんですよ。そういう子がひたむきに仕事をしてくれたら、俺バカだから俺のこと好きなんじゃねーかな? って勘違いしちゃうんですよ(渡辺)」。だから、すべて一人で回す。新作が出るタイミングでは、1日か2日間、ひたすら発送作業に身を投じるほどだ。一人でやれる量である限りは、倉庫を借りて代行業務を頼むよりも自分でやりたいと渡辺は言う。
「俺としたら、グッとくるかこないか。それだけです。プロレスものとか音楽ものとかいくつか言い方はあると思うけど、どれも好きのものだから上下の順位はないし、タコマが持っている多様性ということです」と、TACOMA FUJI RECORDSのTシャツへの思いを語る渡辺友郎。
たっぷりと生姜をのせたもどり鰹の刺身。渡辺友郎は酒飲みでもある。
「カレッジフォントのアカデミックな感じだったり、アスレチックな感じが好きなんですよ」と、リリース直後のロングスリーブTを見せる渡辺。「ありがたいことに多くの注文をいただいたので、明日は多分終日発送作業です。俺がやらなきゃいけない作業じゃないとか言う人もいるけど、買ってくれた人のことを実感できるのは嬉しいですし、そんな毎日が楽しいんすよ」
「発送作業をしてると、よく購入してくださる方の名前とかわかるようになるのが純粋に嬉しいですし、この1つずつ今川焼を焼くみたいな地道な作業が好きなんですよ。仕事もいきなり掛け算して大きくしたいわけじゃなくて、ずっと今みたいにTシャツを作ってたい。掛け算しないで足し算でいいし、少数派でいい。そういうのが楽しいんですよ。でも来年になってしれっと倉庫借りててもそっとしといてください(笑)」
そうして続けてきたTACOMA FUJI RECORDSが、世界的なTシャツのスタンダードを販売し続けるHanesからオリジナルのコラボパックをリリースすることになった。
「ホントにありがたいですよ。だってHanesですよ。タコマのインスタにも『トンビが鷹を生むってこれか』って書きましたけど、本当にそんな気分です。迷惑かけないように、後悔させないように、って。ありがたいです」
Tシャツはファッションでもトレンドでもなく、カルチャーだ。それを着ることで自分の好きなものを出せる。アイデンティティそのものとしてのTシャツを渡辺友郎はTACOMA FUJI RECORDSからリリースし続ける。
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写真と文:中島良平