Style: Paint Your White Canvas

Vol.03 Xiangyu「曲作りにも関わらないと“これ私の曲です”って言えないと思ったんです」

Music2019.12.30 Mon.

白いTシャツを身につけた表現者を撮影し、表現への思いについてインタビュー。そして、白いキャンバスに絵を描くようにして自らのスタイルをつくりあげていく彼ら・彼女らの声を、白T姿のスナップとあわせて紹介する。シリーズ第3回は、シンガーのXiangyu(シャンユー)。「水曜日のカンパネラ」のサウンドプロデューサーであるケンモチヒデフミとマネージャーのDir.Fこと福永泰朋がディレクションし、南アフリカのハウスミュージックをベースにしたトラックにXiangyuのリズム世界が展開する。アーティストグッズとして限定発売中のTシャツをシルクスクリーンプリントする制作会社moderntimesで取材した。

人前で歌うなんて考えられなかった。

プロジェクト誕生の始まりは、6年前に福永が『デザインフェスタ』を訪れたこと。当時服飾学生だったXiangyuは、ブルーシートや軍手で服を作って展示していた。発表の方法や場所が見当違いでありながらも、彼女から表現への強烈な欲求とエネルギーを感じた福永は、「歌ってみないか?」と声をかけた。

子どもの頃にピアノとクラシックバレエを習っていた以外に音楽経験はなく、ましてや歌は苦手でカラオケさえも避けるタイプだったXiangyu。だが、何がきっかけで変化が起こるかはわからないものだ。専門学校を卒業後、就職した先で仕事をしながらラジオを聞いていたら、「誰も気づいていないかもしれないけど、自分には別の才能が眠っているかもしれない」という阿川佐和子の声が耳に入ってきた。ピンときた彼女は、一度誘いを断った福永に連絡してみた。

「人前で歌うなんて考えられないことだったのに、仕事もやめて勝負かけに行ってしまったんです」と話す彼女からは、芯がぶれずに前を向く強さが伝わってくる。「初めてのライブが去年の9月頭とかなんですけど、その頃には緊張は強かったけど、もうイヤという気持ちではなかったです。でも、自分がライブで歌った後に他のアーティストさんが出てるのを見ると、客観的に見て私よりもパフォーマンスが圧倒的にいいんですよ。もちろん自分がもともとライブをたくさん見に行っていたわけでもないし、やり方とかもわからないから仕方ないといえばそうかもしれないけど、私はそれがすごく悔しかったんです。悔しくて、恥ずかしくて、イヤだったんです」

ふわふわと軽やかな声で話すが、Xiangyuはおそらく頑固で負けず嫌いだ。中途半端なところで諦めてしまう自分など受け入れられないのだろう。そこでくじけるわけにはいかない。

「Xiangyuらしさというか、自分にしかできないことを早く見つけたいというのがすごくあって、思いついたことはとりあえず試してみようという思いが強かったんです。1回目のライブから客席に出て行ってみたり、2回目で餃子のかぶり物を作ってみたり、トライ&エラーじゃないですけどひたすら繰り返して。それでだんだん、お客さんとのコミュニケーションが取れるようになって、楽しいと感じられるようになってきました」

白いTシャツをモチーフに曲も作った。

デビューシングルの『プーパッポンカリー』は、パピプペポの音にフォーカスしてケンモチがアイデアを出した。Xiangyuもそこにおもしろさを感じて自分で歌い、徐々に曲作りに参加するようになる。歌詞を書くようになり、メロディを提案したりもする。

「作ることに関わらないと、『これ私の曲です』っていえないと思ったんです。単純に。最初はケンモチさんがトラックもメロディも作ってくれて、歌詞も乗っていたから、歌っていると自分の曲なんだけど自分の曲じゃないみたいな感覚がありました。もともと自分は作りたい人だから、作品が自分と完全にマッチしていないとしっくりこなくて。自分だったらここにこういう言葉を乗せたいなとか、徐々に歌詞をやり始めました」

「日常に潜む自分的なおもしろワードで笑っちゃったりする」と歌詞について話すが、彼女の言葉選びは独特でキュートだ。日常のダメな自分をさらけ出したり、好きな食べ物を爽やかに歌ってみたり。最近できた曲は、白いTシャツがモチーフだ。

「もともと白いTシャツがすごい好きなんです。気に入ったものを食べ続けるのと同じで、気に入ったものを着続けたいタイプなので、一時期はいつも白いTシャツを着てました。蛍光色も好きなので今日はベルトをオレンジにしてアクセントにしていますが、全身白のコーディネートも好きでよくするんですけど、そのくせ食べこぼしがすごくって。アイスつけちゃったり、パスタのソースが飛んじゃったり、コーヒーこぼして『ああ…』とかよくあるんです。そういう歌を作りました。来年の早いうちにリリースしたいと思っています」

ケンモチと福永の前で歌うだけでも緊張していた1年半前から、Xiangyuは大きく変わった。覚悟を決めて音楽の世界に入り、そこで自分の居場所を見つけて表現を行なっていく気概が彼女を支えている。

「歌っていて楽しいだけだったら、カラオケでいいと思うんですよ。正直な話。私は歌や音楽を通して何か表現をしているつもりだから、それに対して人から反応をもらいたいんです。いい反応でも悪い反応でも構わないので、そういうのを受け取るとまた色んなエッセンスが入ってきて、大きく広がると思っています。もっと多くの人に観てもらうために大きなフェスとかにも出たいと思っていますけど、でもそこで終わりではなくて、世の中をよくするために自分が表現者として何かできるようになりたいです。まだ着地点はわかりませんが、世の中をよくするために表現を通して何ができるのか、音楽を続けながら考えていきたいです」

Xiangyu シャンユー

文化服装学院を卒業後、デザイン関連の仕事に携わったのち、音楽経験も一切なしのまま2018年9月よりアーティスト活動をスタート。シングル『プーパッポンカリー』などが話題となり、2019年5月に初EP『はじめての○○図鑑』をリリース。2019年12月30日渋谷clubasia、12月31日恵比寿LIQUIDROOM、2020年1月9日恵比寿BATICA、1月16日新宿MARZと、年末年始にかけて都内でライブが続く。
Instagram @xiangyu_gyouza
twitter @xiangyu_fish

撮影協力:moderntimes 写真と文:中島良平

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